胸郭出口症候群について
胸郭出口症候群は、神経障害と血流障害に基づく上肢痛・上肢のしびれ・頸肩腕痛を生じる疾患の一種です。
腕神経叢(わんしんけいそう)と鎖骨下動脈(さこつかどうみゃく)は、前斜角筋(ぜんしゃかくきん)と中斜角筋(ちゅうしゃかくきん)の間、鎖骨と肋骨の間、小胸筋の下層を解剖学上走行しているのですが、それぞれの部位で神経が圧迫を受ける可能性があります。
神経の圧迫と血管の圧迫が、各々の部位で生じると、斜角筋症候群・肋鎖症候群(ろくさしょうこうぐん)・小胸筋症候群と称されるのですが、これらはまとめて胸郭出口症候群(thoratic outlet syndrome)と総称されております。
頸椎の過伸展や過屈曲により、腕神経叢が複数部位で圧迫を受け、首から肩、腕の痛みが出現します。胸郭出口症候群は、首が長く、なで肩の女性に多く発症している点が特徴(男性の2~3倍)です。
胸郭出口症候群の診断方法は以下のとおりです。
モーレイ(Morley)テスト
鎖骨の上にあるくぼみ部分にある腕神経叢を指で圧迫した際に、圧痛や前胸部への放散痛が生じると、陽性となります。
アドソン(Adson)テスト
しびれや痛み等症状のある腕側に首を回旋し、そのまま首を反らせた(あごをあげた)状態で深呼吸した際、橈骨動脈の脈拍が弱まれば、陽性となります。
ライト(Wright)テスト
座った状態で腕をつかんでもらい、脈を取られながら肘を90度曲げて肩の上あたりまで腕をあげてもらった際、橈骨動脈の脈拍が弱まれば、陽性となります。
エデン(Eden)テスト
両腕を上方向に90度まげて3分間グーパーを繰り返し、手指のしびれや前腕のだるさのため途中で腕が挙げられなくなったり、上半身が蒼白になったら陽性となります。
ルース(Roos)テスト
座った状態で胸を張り、症状が出ている方の腕を後ろ下の方向に引っ張られた際、橈骨動脈の脈拍が弱まれば、陽性となります。
画像検査
レントゲン検査や血管造影検査がありますが、いずれも胸郭出口症候群の確定的な診断にはあまり役立たないようで、特に血管造影を行う病院は少ないです。
胸郭出口症候群の治療方法としては、抗炎症薬の投与に加え、日常生活上の動作で症状を悪化させる動作は避けるよう指導されます。多くはこれら保存療法で治癒すると言われております。
重症例では、第1肋骨切除の手術が行われる場合もあるようですが、確定診断が困難なこと、手術の難易度が高いこと、手術をしても症状が消えないことが多いことから、ほとんどの場合で手術は行われていません。
交通事故の被害に遭った結果、胸郭出口症候群と診断され、症状が残ってしまった場合、上記のとおり保存療法で治癒すると考えられていること、確定的な診断が困難なこと(客観的な所見がほとんどとれません)、むち打ちが発症する程度の物理的衝撃で胸郭出口症候群を発症するのは不自然との見解が存在することなどから、自賠責保険における後遺障害等級としては、多くが非該当、よくて14級と判断がされる傾向にあります。