コラム記事

高次脳機能障害の等級別症状とその判断資料

2015.05.06 高次脳機能障害頭部

医師に高次脳機能障害と診断されたからといって、必ずしも自賠責保険で高次脳機能障害が交通事故による後遺障害であると認定されるわけではありません。
そのため、高次脳機能障害の後遺症が残ってしまった方が、自賠責保険で高次脳機能障害で後遺障害等級が認定されるようにするためには、自賠責保険の審査システムを理解した対応が必要です。
ここでは、高次脳機能障害の重症度の程度で、どのような等級が認定されるかということについての説明します。

「後遺障害等級が何級か」ということは、被害者の方が喪失してしまった労働能力の度合いと考えることができます。このことを踏まえ、自賠責保険では認知障害だけでなく、行動障害や人格変化を原因とした社会的行動障害も重視しています。社会的行動障害があれば、労働能力にかなりの影響があるといえるからです。
自賠責保険調査事務所における等級認定にバラつきがある等級は、5級、7級、9級に該当しそうな事例となります。認定された等級が1級から3級の場合は、概ね相当等級であると納得できるのですが、5級か7級、7級か9級については、等級認定基準自体が不明確であることもあり、認定にバラつきが生じているように思われます。

その根拠といえるのが、損害保険料率算出機構で異議申し立てが認められる件数である約10%程度のうち、そのほとんどが非該当から等級認定ではなく、上位等級への変更という事実です。
自賠責保険における労働能力の解釈とその評価は、自賠責保険の高次脳機能障害認定システム検討委員会作成の平成23年報告書によると、以下のとおり行われているようです。

1級 身体機能は残存しているものの、高度の痴呆があるため、生活の維持に必要な身の回り動作に全面介護を要するもの
→暴力行為や小便の垂れ流し
2級 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
→高度のひきこもりや、家族がそばにいないと福祉就労すらできないケース等も含む
3級 自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
→ごく近所への外出しかできないケースや福祉就労のみ可能なケース等
5級 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
→金銭管理ができず、単純作業であってもミスが多いため職場の理解が不可欠なケース等
7級 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業維持力などに問題があるもの
※一般就労を「かろうじて」維持できるというニュアンスが適切。ただし、脳損傷による神経損傷があることが前提で、脳損傷が認められない精神疾患は該当しない

このように、等級の認定基準は等級が下がるほどかなりあいまいです。そして、何級に該当するか中身の判断に用いられる資料は以下のとおりです。

必須資料

神経系統の障害に関する医学的意見(年齢によって様式が異なる)

神経系統 資料①
神経学的所見の推移について

神経系統 資料②
神経系統の障害に関する医学的意見


日常生活状況報告(年齢によって様式が異なる)

日常生活 資料①
日常生活状況報告

日常生活 資料②
学校生活の状況報告

日常生活 資料③
脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書

追加提出した方がよい資料

1.神経心理学的検査
 WAIS-R成人知能診断検査
 改訂長谷川式(HDS-R)
 WMS-R(ウェクスラー記憶検査)
 BADS(前頭葉機能検査)等

2.就業先における同僚等の陳述書

3.臨床心理士による心理評価報告書や心理報告レポート等

4.介護保険・労災保険の添付資料である医師の意見書

5.母子手帳等(胎児受傷の場合)

提出する資料は多岐に渡りますが、自賠責保険調査事務所が等級の程度を判断するにあたり、特に重視している資料は「日常生活状況報告」です。
医師が作成した「神経系統の障害に関する医学的意見」は、診察室での短時間で見られた所見では高次脳機能障害の特性がとらえられにくく、実はあまり参考にされていません。

例えば、記載内容のひとつである「性的な異常行動」の有無など、診察室の中でしか患者を診ていない医師にわかるはずがないということは、なんとなくイメージがしやすいのではないでしょうか。
自賠責保険調査事務所は、意識回復時から症状固定時までの具体的な症状とその経過の詳細をみようとしてます。

しかし、これらの事情は医師が把握するのには難しく、日頃からご本人と一緒にいる家族などの介護者が知りうる立場にある方々となります。
介護者が作成したご本人の症状の具体的内容、具体的エピソードに関する資料が重視され、その資料内容がウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査や医師作成の「神経系統の障害に関する医学的所見」と比較して矛盾していない場合には、ご家族作成の資料を等級認定の重要資料としています。

「日常生活状況報告」は、後遺障害の程度をはかるうえで重要な資料ですが、定型の書式では余白が足りず、意識回復時から症状固定時までの具体的な症状とその経過を詳細かつ網羅的に記載することができません。

そのため、必要事項を押さえて項目を整理し、詳細を網羅した陳述書の形で別紙を作成する必要があります。そのもとになる資料として、時系列でエピソードをつづった日記の作成が重要となっていきます。

日常生活状況報告書が重要資料とされる条件は、医師の意見と矛盾しないことなので、ご家族の作成するエピソードが医師の意見と矛盾する場合は、日常生活状況報告書の資料価値を失いかねません。

このため、第二の対策として、時系列でつづったご本人の症状経過を表の形で整理し、パソコンで落とし込み読みやすくした資料を担当医に提出してカルテに挟んでもらうなど、医師への情報提供が必要となっていきます。

自賠責保険調査事務所は、ご家族のほかにも職場の上司や同僚、臨床心理士等日常のケアにあたっている医師以外の医療従事者等の供述も重視しています。

ご本人が職場復帰や就労支援を受けて何らかの業務に就かれている場合、ご家族等の介護者は、就労状況を知りえません。

事故前と事故後の就労状況を把握しているのは職場の同僚等です。このため、対策として職場の同僚等が作成した被害者の就労状況に関する陳述書を提出することも必要です。

しかし、陳述書の内容はご本人がまともに働けていないという内容を事細かに記載したものとならざるを得ないため、同僚の方としては、文書で正式にご本人の非をあげつらうような形となることに大きなためらいがあるようで、協力を得ることが難しいケースも多いです。

また、ご本人が事故後、新しい職場に就職しその職場のご同僚に協力を依頼する場合、もともとのご本人を知らないため理解や協力を得難い状況におかれます。ご家族において、ご本人やご家族の窮状を説明し、高次脳機能障害という病気をよく説明し、粘り強くお願いする必要があります。

ご本人が復職できていない場合、職場の同僚という存在がいないので何も提出できないかというと、そうではありません。

この場合は、臨床心理士等日常のケアにあたっている医師以外の医療従事者や、福祉就労先ないしは職業訓練先の作業所の指導員の報告書を資料として提出することができます。これらの方は、ご本人との接触時間が長く、高次脳機能障害患者と日常的に接しているため、知見も豊富で的確な報告書の作成が期待できます。

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