2 医学に関する分野横断的知識の重要性
私は,これまで,交通事故の被害者様側の弁護士としての交通事故事件における経験を多数積み,そのうちのいくつかを解決事例としてご紹介しております。
このほかにも,私は,医療機関様側の顧問弁護士として,また,医療事故に遭われた患者様側の弁護士として,医療事件をも通じて医療分野に関する多くの経験を積み,医学知識の習得に努めて参りました。
その過程で,例えば脳卒中(脳梗塞,脳出血)に関するご相談や事件依頼をお受けすることがしばしばあり,脳損傷の機序やその影響について,医学文献を紐解きつつ,当該事件の当事者たる医師のほか,第三者的な立場にある協力医の方との協議を徹底的に行い,CTやMRIの読影にも何度も立会い,事案の究明に努めて参りました。
また,遷延性意識障害が関連する事案においては,意識障害の程度・内容について医師と綿密な打ち合わせをしましたので,意識障害の診断のつけ方として,JCS(ジャパン・コーマ・スケール)やGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)というものがあるのですが,GCSの方がより的確な診断をつける基準として機能することなどの理解にもつながりました。
これら経験は,高次脳機能障害に関しての事件を理解・遂行する上でも役立ちました。なぜなら,高次脳機能障害の病態を理解し,これを立証するには,CT及びMRIの所見,特に,びまん性軸索損傷による高次脳機能障害の場合はMRIの所見が重要であり,かつ,事故当初の意識障害の有無・程度の理解が必要だからです。また,これらを立証するための医証の取得には,医師の専門性や技量によって左右されることがあります。事故当初の急性期の場合,医師によってはCTしか撮影しておらず,高次脳機能障害の発見が遅れ,発症機序が不明瞭となる場合もあります。原因を的確に見抜くにはMRIの撮影も必要です。また,高次脳機能障害を立証するためには,必要な検査,検査を受けるべき時期,選ぶべき通院先の選定等も重要です。
一例として脳損傷や遷延性意識障害に関する事件を取り上げましたが,私が対応した案件に関連する医学分野としては,循環器内科,心臓外科,呼吸器外科,整形外科,皮膚科,麻酔科,脳神経外科,消化器内科,消化器外科,内科,外科,小児科,形成外科,神経内科,精神科,産婦人科,歯科,鍼灸・接骨・整骨等,多岐に渡っております。
特に,医療事故事件として実際に受任して対応した案件をいくつか挙げる以下のとおりです。
不整脈治療(カテーテルアブレーション)中の事故における過失性が争われた医療事件,心筋梗塞治療(PTCA)中の手技上の過失性が争われた医療事件,健康診断において撮影されたXP上に陰影された癌の見落としの過失性とその後患者死亡との因果関係が争われた医療事件,リハビリ中の指導の過失性が争われた手指骨折による可動域制限が争われた医療事件,大腿外側皮移植に伴う神経障害によりCRPSを発症したか否かが争われた医療事件,腹腔鏡下手術中における手技上の過失性とその後の直腸穿孔及び腹膜炎後の体幹機能低下との因果関係が争われた医療事件,浅大腿動脈抜去血行再建術における手技上の過失性とその後の肢屈曲困難や反射性交感神経性ジストロフィーとの因果関係が争われた医療事件,療術院における治療器具脱落事故に伴う傷害事故案件,什器脱落事故により脳脊髄液減少症を発症したか否かが争われた医療事件,気管支肺炎後の経過観察中の死亡についてその過失性と因果関係(MRSA関与か否か等)が争われた医療事件,交通事故による遷延性意識障害後の経過観察中の死亡についてその過失性と因果関係が争われた医療事件,透析用カテーテル針自己誤抜去か病院側の経過観察の過失かが争われた死亡事故医療事件,抜歯における手技上の過失性が争われた神経障害残存医療事件,脳梗塞について来院時の見落としか帰宅後の発症かが争われた片麻痺後遺障害医療事件,病院における飛び降り事故の原因について病院側の過失性が争われ大量事件,腹腔鏡下手術中の手技上の過失性とその後の大腸穿孔及び人工肛門造設術との因果関係が争われた医療事件,術中の血行管理の過失性が争われたコンパートメント症候群後遺障害医療事件,手技上の過失性が争われた遷延性意識障害医療事件など
このように,思い起こせる重点対応事案だけでも多岐に渡ります。
以上の経験に根差した医学的知識は,交通事故の被害に遭われた方が適正な補償を受ける上で,必ずや役立つものと思っております。このような経験もあり,弊所は,複数の医師の方や弁護士の方からのご推薦もいただいております。
そして,弊所は,これまで培った経験のみで満足することなく,今後もさらに高いレベルの医学知識の習得を目指しております。
その一環として,例えば,定期的に地域治療院の皆様との勉強会・意見交換を積極的に行っており,また,専門医の方等の主催する勉強会に参加して交流を深めるなど,定期的な研修の機会を得ております。
医療分野に関する研鑽を積んだ弁護士として
1 適切な後遺障害等級の認定を受けるためのたった1つの重要ポイント
(1)とにかく症状に見合った適切な医証を取得する必要があります。
(2)適切な医証が取得できなかった場合の不利益 ~むち打ちの場合
(3)適切な医証が取得できなかった場合の不利益 ~高次脳機能障害の場合
(4)適切な医証を取得するには