頸部神経根症


1 頸部神経根症とは

交通事故後のいわゆる「むちうち」は

①頚椎捻挫型
②神経根症状型
③バレー・リュー症状型
④神経根症状、バレー・リュー症混合型
⑤脊髄症状型

という5つに分類されるという考え方があります。
交通事故によるむち打ちのタイプとしては、①頸椎捻挫型が最も多く、診断書にもよくこの記載がされているところです。

本稿では、これらのうち、②、④にいう神経根症状型(頸部神経根症)について解説します。

頚髄神経は左右に8本脊髄から枝分かれしております。この枝分かれした末梢神経は左右の上半身を走行しており、上肢を支配しております。このイメージが植物の根に似ているところから神経根と呼ばれております。

神経根症とは、これら神経根が圧迫・刺激されることで、首の捻挫の症状に加え、上肢に痛みやしびれのほか、筋力低下などの症状が出現する症状医のことをいいます。

交通事故により、自賠責保険から後遺障害として認定されるむち打ちは、このタイプが最も多いです。交通事故後、疼痛をはじめとする神経症状が認められる場合、その原因が交通事故に起因するものであると医学的にある程度説明が可能であるため、後遺障害等級を認定しやすいからです。神経根症状がない①の頸椎捻挫型の場合、一般的には3カ月程度で治癒するものと理解されているため、本当に症状が残っているのか医学的に疑わしいと邪推されてしまい、後遺障害等級が認定されにくい傾向にあります。

2 症状

症状としては、神経根の障害に由来するため、障害となっている神経根の支配領域に一致した疼痛、放散痛、感覚障害、筋力低下、上肢の腱反射の低下等が生じます。必ずしもすべての症状が出現するわけではなく、通常は、単一の神経根が障害されるため、症状はその神経根の支配領域と合致した片側上半身の比較的限定された領域に生じます。例えば、左手指の一部や、右腕の前腕などだけに痛みとしびれが生じるといった感じです。

3 交通事故における頸部神経根症とその検査・診断

神経根症状がある場合、神経学的所見では以下の所見が認められることになります。

・スパーリングテスト※1で陽性(+)
・ジャクソンテスト※1で陽性(+)
・MRI検査での神経根の圧迫所見
・C5/6の神経根症状の場合、三角筋、上腕二頭筋の筋力低下※2、筋萎縮※3が 認められ、深部腱反射テスト※4で低下または消失の所見が示されること
・C6/7/8の神経根症状の場合、上腕三頭筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋の筋力低下※2、筋萎縮※3が認められ、深部腱反射テスト※4で低下または消失の所見が示されること
・C8/Th1の神経根症状の場合、小指外転筋の筋力低下※2、筋萎縮※3が認められ、深部腱反射テスト※4で低下または消失の所見が示されること


※1スパーリングテスト、ジャクソンテスト
これらのテストは、医師が患者の頭部を傾けて神経根に圧力を加え、神経根障害の有無を確認する検査です。神経根に障害がある場合、当該神経の支配領域に痛みが生じます。反応があれば陽性(+)、なければ陰性(-)です。

※2筋萎縮

腕周りの太さを計測する検査によって筋萎縮(腕廻りが、正常な腕の太さと比べ細くなっている状態)が認められることをいいます。

※3筋力低下
医師が手で抵抗を加えて患者の筋力の強さを測る徒手筋力検査(MMT)で上肢の筋力低下が認められることをいいます。

※4深部腱反射テスト
腱をゴムハンマーで叩いて筋収縮を確認する検査です。神経根や末梢神経に異常がある場合は反射が「低下または消失」し、脊髄に異常がある場合は反射が「亢進」します。各所見によって、後遺障害診断書には以下のとおり記載されます。

 著名な亢進  亢進  正常  低下(減弱)  消失
 +++  ++  +  ±  -

 

4 交通事故における頸部神経根症を伴うむちうちの後遺障害等級認定のポイント

(1)12級13号認定の条件

自賠責実務の運用からは、以下の条件が必要であると推測されます。
・神経根の圧迫所見がMRIで確認されること
(または針筋電図検査で支配領域の上肢に神経原性の麻痺が確認されること)
・上記MRIまたは針筋電図検査の所見が「外傷性の所見」であると判断されること(→※註 参照)
・MRIの画像所見に一致する神経学的な異常所見が認められること

※註 この点の立証が最も困難です。
医師が外傷性ヘルニアであると診断しても、以下のような状況が認められないと、自賠責はなかなか外傷性ヘルニアであることを認めてくれません。

・頸椎の椎間板が突出するほどの外力を受けうる大事故であったこと
・MRI画像上、頸椎椎間板ヘルニアが1、2ヶ所であること
・その他の部位に椎間板の変性や、膨隆、突出が認められないこと
・交通事故による受傷後、比較的早期にヘルニアの部位に合致した神経学的所見が認められていたこと

頸椎や腰椎などの加齢による変性は18歳ころから徐々に始まるものと医学的に考えられているため、若年であるほど頸椎に変性がほとんどない可能性が高いと考えられております。このことから、交通事故被害者の方の年齢が若年(概ね35歳未満)であれば、画像上確認されたヘルニアは外傷性所見であると認められる可能性が高くなっていきます。
逆に35歳を超えてくると頸椎にヘルニアがあっても加齢性のものと判断されやすく、12級の獲得は困難になっていきます。

(2)14級9号認定の条件

自賠責実務の運用からは、以下の条件が必要であると推測されます。

・自覚症状と頚部神経学的所見が神経根症に概ね一致していること(画像所見等は必ずしも必要ないものと考えられます。)
・痛みの連続の存在が推測される通院状況が認められること

神経根症を伴うむちうちにおいて14級9号が認定される可能性は、若年であるほど確率が落ちます。これは、ヘルニアの存在が加齢に伴うものであり、交通事故によって生じたヘルニアではないと判断されてしまうからではないかと推測されます。
これまでの経験に照らしますと、35歳を軸にこの年齢を下回れば下回るほど場合は14級が認定されにくく、この年齢を上回れば上回るほど14級が認定されやすくなるものと実感しております。ただし、50歳を超えてくると、加齢性の変性がより進むため、元々の既往症による痛みと判断されてしまうのか、徐々に14級が認定されにくくなっていくものと推測されます。

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