身体障害者の方の後遺障害について

身体障害者の方が交通事故の被害に遭い,さらに後遺障害を負ってしまわれたという場合,もともとの身体障害が今回の事故による後遺障害にどの程度影響しているかによって,加害者側に請求できる賠償金額が変わってきます。交通事故とは関係なくお身体に障害があった場合や,過去の交通事故で後遺障害が残ってしまっていたところに,さらに今回の交通事故で後遺障害が残ってしまった場合のいずれについても,関係する問題です。

一般に,後遺障害が残った場合,加害者側に請求できる費目としては,大きく分けて2種類の賠償金が請求できます。一つは後遺傷害慰謝料,もう一つは後遺障害逸失利益です。後遺傷害慰謝料は,後遺障害が残ったことそのものに対する慰謝料であり,後遺障害逸失利益は,後遺障害が残ったことにより,今後将来的に減収となってしまう損失についての補償です。今回の交通事故に遭う以前からお身体に障害をお持ちだった方については,これら2種類の費目いずれもが大きな影響を受けます。

そして,もともとの身体障害と今回の交通事故による後遺障害とが,部位的に同一の部位または同系列の部位か,無関係の部位かによって損害額の算定方法がおおきく異なります。

そこで,以下,それぞれの場合に分けて解説します。

 

1 もともとの身体障害と今回の交通事故による後遺障害とが無関係の部位である場合について

この場合,基本的にはもともとの身体障害は考慮されない,つまり,健常者が交通事故で後遺障害を負った場合と同じように,加害者に対して損害賠償を請求できると考えられます。

ただし,別個の部位であっても相互に関連性があるといえるような場合には,賠償金額が一定程度減額される可能性が否定できません。

 

2 もともとの身体障害と今回の交通事故による後遺障害が同一の部位または別系列の部位である場合について

(1)自賠責保険における取扱い

自賠責保険では,既に何らかの障害をお持ちの方が,交通事故によってもともとの身体障害と同一の部位または同系列の部位の障害が重くなったような場合について,一般には加重障害と呼称しております。厚生労働省労働基準局監修の「労災補償障害認定必携」では,この加重障害の例として,「胸腰椎にせき椎圧迫骨折を有していた者が,さらに頸椎のせき椎固定術を行った者」,「1上肢を手関節以上で失っていた者が,さらに同一上肢をひじ関節以上で失った場合」,「1下肢の足関節に著しい障害又はひざ関節の用廃をしていた者が,さらに同一下肢を足関節以上で失った場合」などが挙げられております。また,別系列の部位の障害であっても,例えば,右上肢を手関節以上で失っていた者(5級)が,新たに左上肢を手関節以上で失った場合,改めて5級と認定するのではなく,両上肢を手関節以上で失った者という区分に分類され,2級として認定されます。

しかし,今回の交通事故によるあらたな後遺障害が,もともとの身体障害の等級よりも高い等級で認定されなければ,自賠責保険では加重障害とされず,非該当という判断になってしまいます。

(2)後遺障害逸失利益の計算方法

裁判所は,後遺障害逸失利益の考え方について,後遺障害がなければ得られたであろう収入から,後遺障害がある状態でも得られるであろう収入を差し引いた差額を,交通事故による損害であるという立場(差額説)を基本としつつ,被害者の職種や稼働状況,収入の推移を考慮して損害額を算定しております。

そのため,身体障害者の方が交通事故で後遺障害を負われた場合は,もともとの身体障害がある状態でどの程度収入があったか,交通事故がなかった場合における将来的な収入の見込みはどうであったか,といった事情が重要となって参ります。

裁判例としては大きく3つに分類できます。

ⅰ もともとの身体障害がすでに軽快または改善していたとか,もともとの身体障害が障害というほど重くないと判断して,もともとの身体障害を理由とした減額を認めなかった裁判例

ⅱ 反面,今回の事故による障害がもともとの身体障害の加重障害であると判断しただけでなく,後遺障害逸失利益を0と判断した裁判例(このような判断に至った事情は様々ですが,もともと収入がない上に将来的にも収入が見込める状態でなかったことや,今回の事故による新たな後遺障害が今後の収入に影響を与えないとか,収入に影響を与えるかが不明確であることなどが主な理由とされております。)

ⅲ もともとの身体障害を理由に逸失利益を減額算定した裁判例

そして,このうち「ⅲ もともとの身体障害を理由に逸失利益を減額算定した裁判例」も,以下のとおり大きく3つの考え方に分類できます。

現在の後遺障害を前提とした労働能力喪失率から,もともとの身体障害を前提とした労働能力喪失率を差し引いて,今回の交通事故による労働能力喪失率を算定する考え方

もともとの身体障害の内容・程度を踏まえつつ今回の交通事故による新たな労働能力喪失率を算定しようという考え方

現在の後遺障害を前提とした労働能力喪失率をそのまま用いつつも別の方法(もともとの身体障害下における実収入をベースにする例や,もともとの身体障害を理由に一定の減額をする(素因減額)例等があります。)で,もともとの身体障害を考慮しようという考え方

 

以上の裁判状況を踏まえ,東京地方裁判所交通部の裁判官(平成18年当時)が,もともと障害をお持ちだった方が今回の交通事故により同一の部位または同系列の部位にさらに障害を負ってしまった場合の逸失利益の算定方法について,以下のようなA,B,C3つの考え方を示しました。

 

A (今回の交通事故前の実際の収入or既存障害を考慮して平均賃金を減額した額)×(今回の交通事故自体による労働能力喪失率)×労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数

 

B (今回の交通事故で加重された後遺障害により算定された逸失利益)-(本件事故による受傷がなかった(既存障害のみによる)場合の逸失利益

 

C (今回の交通事故で加重された後遺障害により算定された逸失利益)×(もともとの身体障害(既存障害)を理由とした寄与度減額率(訴因減額率))

 

そしてこれらの計算方式には以下のような特徴があることが指摘されております。

(A方式の特徴)

基礎収入の認定において既存障害の影響を考慮する点

ただし,以下の問題点がある。

基礎収入として平均賃金を用いる場合,もともとの身体障害(既存障害)による収入への影響をどう認定し算定に反映させるべきか

本件事故自体による労働能力喪失率をどのように認定するべきか

(B方式の特徴)

基礎収入について,もともとの身体障害(既存障害)による影響を考慮しない数値を用いる点(若年者や主婦など,平均賃金を基礎収入として用いる場合には算定が比較的容易になる。)

ただし,実収入を基礎収入として用いる場合,健常人であったならば取得できたであろう収入額を実収入額から逆算することに困難を伴うなど,種々の問題がある。

(C方式の特徴)

もともとの身体障害(既存障害)の程度や今回の交通事故自体による労働能力喪失率を証拠から算定することが困難な場合であっても逸失利益の算定が可能になる。

ただし,算定方法が大雑把なものとならざるをえないので,A方式及びB方式による算定が困難な場合に限りC方式によるべきではないかと考えられる。

以上のとおり,各算定方式にはそれぞれメリット・デメリットがあります。そのため,後遺障害の部位・程度,証拠の有無,実収入への影響の程度などを考慮し,個別具体的な事案に応じて適切な算定方法を選択する必要があります。

 

(3)後遺傷害慰謝料の計算方法

裁判例の特徴としては,もともとの身体障害(既存障害)を考慮して,後遺傷害慰謝料を一定程度減額する流れが主流です。

ただし,逸失利益を請求しても認められにくい後遺障害(外貌醜状や歯牙欠損等)を負った事案の場合で,現に逸失利益の請求が否定された場合は,もともとの身体障害(既存障害)は考慮されない(つまり,健常者が今回の交通事故で後遺障害を負った場合と同様の損害賠償を請求できる)か,または後遺傷害慰謝料が増額されるという場合も十分にありうるところです。

 

 

以上のように,もともと身体障害をお持ちであった方が交通事故の被害に遭われ,後遺障害を負ってしまった場合に得られる補償額の計算は極めて複雑な上,裁判所における取扱いも一定しておりません。

もともと身体障害をお持ちの状態で交通事故の被害に遭われ,きちんとした補償を受けられるのか悩んでおられる方がいらっしゃいましたら,ぜひ弊所へご相談ください。

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